出生前診断の最前線に

出生前診断の最前線に

四月から国内で始まった新しい出生前診断。東海地方でいち早く参入した名古屋市立大病院で、検査希望者に向き合う医師やカウンセラーを率いる。

 

 「われわれがやらなければ、妊婦がインターネット経由で海外の営利目的業者の検査を手軽に受けるなど、混乱しかねない」

 

看護師

 

妊婦の血液を調べるだけで、胎児のダウン症など染色体異常が99%以上の精度で分かる検査。

 

開始から半年で当初想定の二倍の六百人を受け入れた。

 

大半は「陽性」の結果が出れば出産を諦めようと決めて来るという。

 

 新しい出生前診断を、命の選別や障害者差別につなげてはならないという考えは「正論だと思う」。

 

「仕事が忙しい」と子育てを母親に押し付ける父親や、育児休業制度の整備が遅れる企業、保育園の待機児童問題を解消できない行政などにも、首をかしげる。

 

「今の日本は、妊婦が胎児の障害を気にせずに『案ずるより産むがやすし』と思えるほど優しいのか」と。

 

「検査で分かる障害は一部」「100%の確定診断には、お母さんのおなかに針を刺す羊水検査が必要。

 

三百人に一人が流産の危険がある」と丁寧に説明を続ける。

 

看護師

 

「障害児の出産経験があるなど、妊婦はさまざまな事情を抱える。

 

それぞれが納得のいく判断材料を示せれば」と願う。

 

名古屋市生まれで、医師を志したのは高校生の時。

 

大手銀行の役員だった祖父が脳卒中で倒れ、脳死状態になった姿を見て「人の生命とは。

 

死とは何かという根源的な問い」に興味を抱いた。

 

 

 

作家や法律家にも憧れたが、「国語や社会科は苦手で、理数系の科目が得意だったから」と三重大医学部に進んだ。

 

医学生になっても小説や哲学書を読みあさった。

 

大江健三郎さんが先天的に知的障害のある息子を持った経験を基に書いた「個人的な体験」に触発され、遺伝を研究する産婦人科の教室に入った。

 

米国留学などを経て、名市大に勤務して十一年。

 

遺伝医療は「ヒトゲノム」と呼ばれる人間の膨大な遺伝情報を短時間で解読する装置の登場などで急速に発達。

 

新しい出生前診断もその一つだ。

 

 「医療はしばしば人間の死生観や倫理観、法律などよりも先に行く。新しい技術が本当に病気から人を救い、生活を豊かにするのか。

 

しっかり議論する場がほしい」(相坂穣)

 

医人伝 名古屋市立大病院(名古屋市瑞穂区) 
臨床遺伝医療部准教授 鈴森伸宏さん(45) 

 

2013-11-09 中日新聞社 より